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正常唾液腺とその免疫染色 [唾液腺腫瘍]

正常の唾液腺組織と免疫染色に関するコメントです.

 

図1(耳下腺)

 唾液腺(ここでは耳下腺)は,最上流の腺房から最終的に口腔に開口するまでの導管系からなります.導管系は腺房に最も近い介在部から,線条部を経て,集合管へと移行する一連の構造です.正常の唾液腺ではこれらの構造がごちゃごちゃと詰まっていて,それぞれの識別と相互関係がわかりにくいかもしれません.この写真では,中央に介在部導管があり,右下方に線条部導管が認められます.その周りの顆粒を持った細胞が漿液性の腺房細胞です.耳下腺の腺房は純粋な漿液性腺房で,粘液細胞をまじえていません.

 

図2(耳下腺)

 この図のように,小葉間に脂肪細胞が入り込んだ少し萎縮性の唾液腺ですと,よく探せば,腺房(左)から介在部導管(中央),線条部導管(右)までがつながっているのがわかるところが見つかります.唾液腺の腺房や導管は,二層の上皮構造からなっており,管腔に面することのない筋上皮細胞や基底細胞が基底膜上に存在しています.これらの細胞は小型であるため,わかりにくいのですが,注意深く観察するとHE染色標本でも同定できます.しかし,後で示すような免疫染色を施行すると,明瞭にその存在を知ることができます.

 

図3(顎下腺)

 顎下腺も基本構造は耳下腺と同様ですが,耳下腺と異なるのは,腺房は漿液性と粘液性(明るい細胞)の混合型であることと,線条部導管(右上方と右下方)がより発達していることです.線条部導管上皮細胞の基底側にみられる線条(基底線条)は,基底部細胞膜の多数の嵌入によるもので,この間には多数のミトコンドリアが詰まっています.

 

図4(舌下腺)

 舌下腺の腺房は粘液性腺房の優位な混合型で,介在部導管や線条部導管は耳下腺や顎下腺と比べて発達が悪いという特徴があります.口腔粘膜に広く分布する小唾液腺の多くは,この舌下腺に類似した構造を示します.

 

図5(耳下腺,AE1/AE3)

 上皮細胞マーカーであるAE1/AE3などのpan-cytokeratinの抗体で免疫染色すると,すべての上皮細胞が陽性を示しますが,導管上皮がより強く染色されます.左端に線条部導管,中央に介在部導管が認められます.正常の腺房細胞が薄く染色されるのは,細胞質内に酵素原顆粒が充満していることによるものと考えられます.

 

図6(耳下腺,EMA)

 上皮の細胞膜抗原であるEMA(epithelial membrane antigen)で染色すると,導管上皮細胞や腺房細胞の腺腔面が線状に陽性を示します.EMAの免疫染色は,腫瘍組織中に腺腔構造を見たときに,それが真の腺腔か偽腺腔(偽嚢胞腔)かの鑑別に役立ちます.

 

図7(耳下腺,α-amylase)

唾液腺では,α-amylaseの抗体で染色すると,漿液腺腺房細胞の酵素原顆粒に一致して陽性を示します.しかし,不思議なことに,形態的に明らかな腺房細胞癌でもamylase陽性率は高くなく,逆に多形腺腫などでしばしば陽性を示すので,残念ながら腺房細胞癌の診断にはこの染色はあまり役立ちません.なお,lysozymeやlactoferrinも腺房細胞に陽性を示します.ただし,α-amylaseが腺房細胞のみが陽性を示すのに対して,lysozymeとlactoferrinは介在部導管上皮細胞も陽性を示します.

 

図8(耳下腺,mitochondria)

 抗ミトコンドリア抗体を用いて染色すると,正常唾液腺では線条部導管上皮細胞が際立ってよく染色されます.もちろん,この細胞がミトコンドリアに富んでいるからです.抗ミトコンドリア抗体の免疫染色は,腫瘍の診断の際には,ミトコンドリアに富んだ細胞,すなわちオンコサイトの同定に有力です.

 

図9(耳下腺,α-smooth muscle actin)

α-smooth muscle actinに対する抗体で染色すると,HE染色では同定の難しい筋上皮細胞が明瞭に染め出されます.ここでは介在部導管(中央)と腺房細胞の周囲に存在する筋上皮細胞が陽性を示しています.もちろん,この抗体では,唾液腺組織内の血管平滑筋なども陽性を示します.

 

図10(耳下腺,α-smooth muscle actin)

 ここでは,線条部導管(中央のやや上寄り)にも筋上皮細胞が認められることがわかります.更にその右上では,血管壁の平滑筋細胞がα-smooth muscle actin陽性を示しています.

 

図11耳下腺,HHF-35)

 Muscle specific actinに対する抗体(HHF-35)で染色しても,同様に筋上皮細胞が明瞭に示されます.

 

図12(耳下腺,calponin)

 

Calponin(平滑筋に存在するアクチン結合蛋白)の抗体で染色しても,α-SMAの抗体のときと同じように,筋上皮細胞が明瞭に染め出されてきます.ちなみに,desminやvimentinは筋上皮細胞は陰性です.

 

図13(耳下腺, p63)

 唾液腺組織をp63の抗体で染色すると,筋上皮細胞と基底細胞の核が陽性を示します.唾液腺腫瘍においては,筋上皮細胞や基底細胞成分のほか,扁平上皮細胞(類表皮細胞)などが陽性を示します.唾液腺腫瘍の診断においては,特異性は高くはありませんが,筋上皮細胞のマーカーの一つとして使うことができます.なお,p63は,前立腺では34βE12と同様に基底細胞の同定,すなわち良悪の判定に使われていることはご承知のとおりです.p63は上皮幹細胞のマーカーとしても注目されています.

 

図14(耳下腺, GFAP)

 GFAP(grial fibrillary acidic protein)は正常の唾液腺ではほとんど染まってきません.

 

図15(耳下腺, GFAP)

 しかし,GFAPは,非腫瘍性の唾液腺組織でも,この写真のように軽度の炎症を伴っている部分や,腫瘍に接している部分などで,まれに明瞭な陽性像を示すことがあります.唾液腺腫瘍においては,多形腺腫の筋上皮細胞成分や筋上皮腫の細胞が陽性を示します.したがって,腫瘍性筋上皮細胞のマーカーの一つとして使うこともできます.

 

図16(耳下腺, S-100 protein)

 以前から,S-100蛋白は筋上皮細胞のマーカーとして代表的なものとしてよく知られていますが,ここに示すように,明らかな導管上皮細胞や腺房細胞も陽性を示すことがあり,特異性の高い筋上皮細胞マーカーということは出来ません.唾液腺組織では,もちろんこのほか,神経線維や脂肪細胞,ランゲルハンス細胞などが陽性を示します.したがって,腫瘍における評価も,S-100蛋白陽性細胞=筋上皮細胞と即断しないよう,陽性細胞の形態を注意深く観察する必要があります.

 

図17(耳下腺, ki-67)

ついでながら,ki-67の染色で正常唾液腺組織における増殖細胞を見てみると,予想に反して,腺房細胞の核が散在性に陽性を示します.予想に反してというのは,唾液腺小葉の予備細胞(幹細胞)は介在部導管部分に存在し,腺房細胞は最終分化を遂げた細胞とみなされているからです.

 

図18(耳下腺, ki-67)

 この写真のように,介在部導管の筋上皮細胞(左の細長い核)が陽性を示すこともありますが,数としては,腺房細胞(右の丸い2個の核)の方が目立ちます.

 

 

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